先週の木曜日(8日)ですが、妻を連れて大原にある木戸泉酒造さんへ見学に行ってきました。

杉玉

木戸泉こそは自分が日本酒を飲むきっかけとなったお酒で、いまでも一番よく飲んでいます。
6年ちょっと前に「もっと日本酒を飲んでみたい」と、千葉のお酒を物色した中で見つけたのが、木戸泉の「自然舞」でした。無農薬・無化学肥料に加え、堆肥も植物性を使用しているほか、除草剤までも使わないと言う原材料を、高温山廃仕込み(当時それが何だかよくわかってませんでしたが)という希少な方法でつくられたという、尋常でないこだわりに酒造りへの意気込みを感じ、飲んでみると軽やかな酔い心地が気持ちよく、買い続けたものです。

当然蔵見学もしてみたかったんですが、何も知識がない状態で行っては、よくわからないままに終わってしまうと、今回まで先延ばしにしてしまいました。ここへきてやっとこさ基本的な部分はわかるかな?という程度になったので、あらかじめ電話予約の上で大きな杉玉とレンガ煙突が目印の木戸泉酒造を訪問、荘司社長じきじきに案内して頂きました。

独自の醸造方法にこだわり続ける酒蔵

木戸泉が全量で行なっている高温山廃仕込は、昭和31年に導入されたわりと新しめの技術です。通常の山廃仕込が8度前後の低温で仕込み、徐々に温度を上げながら酵母を培養していくのに対して、木戸泉の場合はまず麹の糖化力が最大限に発揮される55度まで温度を上げて雑菌を淘汰、その後表面温度を30度まで下げてから純粋培養された乳酸菌を添加して酵母も加えます。

数ある乳酸菌の中でも、日本酒に関わるものは2種類だけだそうで、それを発見した京都大学から分けてもらったものを培養しながら使用しているとか。こうして乳酸菌が乳酸を出すことで雑菌の繁殖を防ぎつつ、酸に強い酵母は糖分をアルコールに変えていくわけです。人工的な乳酸を添加する速醸酛とはもちろん、蔵に生息している天然の乳酸菌を呼び込む生酛や山廃とも違う独特のスタイルですが、生酛系同様枯らし期間を長くとることも可能な強い酒母が出来るのが特徴です。まさに合理的な手法と言えますが、酒造りの合理化だけが目的で取り入れられたのではないことは、酒蔵を見学していてもよくわかります。

和釜と甑

「酒造りは一 麹、二 酛、三 造り」とはよく聞きますが、それらはすべていい蒸米があってこその話で、その後の生産過程から味に至るまで、蒸米の出来不出来はとても重要なのだそうです。
木戸泉ではその蒸米に昔ながらの大きな和釜と杉製の甑(こしき)を使用しています。強力な火力が使える和釜は、蒸しの仕上げ段階で乾燥蒸気が米の表面の水分を乾かし、杉製の甑は素材や適度に蒸気が漏れる構造上の特性から、内壁と接した米が柔らかくなりすぎる甑肌(こしきはだ)を防いでくれるため、「外硬内軟」という理想的な蒸し米づくりに最適なコンビネーションと言えます。大型の和釜や甑は年々入手しづらくなるなかで、「これだけは譲れない」という木戸泉の頑固な一面が見て取れます。

麹室

基本に忠実な姿勢は、次に案内して頂いた麹室にも現れています。正面が床、側面が棚の部屋で、4部屋2セットが左右対称に配置され、交互に使用することによって麹室の疲れにも対応できるようにしています。ちなみに吟醸酒を作らない木戸泉では、端麗よりも味わいを求めて麹は突破精ではなく、総破精なんだそうです。自分も吟醸はまだしも、大吟醸ほどに米を磨き捨てるのは、ちょっと日本人の感覚と合っていないように感じており、「いろいろ試したけれど、自分たちの求めるお酒とは違う」と、吟醸をやめてしまった姿勢には共感を覚えます。

チャレンジ精神が支える強い信念

さて、麹室の後は酛場です。ここで酒母が作られるわけですが、木戸泉最大の特徴である高温山廃酛を目で見て、舌で味わうことができます。画像は高温山廃仕込の酒母で、飲んでみるとヨーグルトより鮮烈で深い酸味と甘みが驚くほど美味しい!酵母に関しては木戸泉では全量で7号酵母を使用していますが、これまでに泡無し酵母も試したりしたそうです。

ここで社長に高温山廃仕込について話を伺いましたが、「自分は生酛よりも優れていると思います」とハッキリ仰られました。木戸泉の歴史を少し紐解くと、この信念を支えているのは昔からのチャレンジ精神であることが伺えます。

酒母

明治12年と比較的新しい創業の木戸泉は、速醸式とアル添全盛の昭和31年に高温山廃を導入したのち、昭和40年には長期熟成酒の開発に成功、その2年後には自然農法産米による自然酒の製造を始め、昭和46年古酒を販売と、まさにチャレンジの連続で、いまでは木戸泉の「AFS」と言えば古酒の代表的銘柄となっています。「調味薬品類を使用せず、自然醸造による旨き良き酒をモットーにし、真に百薬の長として、人類の健康に奉仕する日本酒こそ本物の酒」という確たる目標を掲げて、鑑評会には見向きもせずに吟醸をやめ、自らの信ずる酒造りにチャレンジし続けてきた酒蔵だからこそ持ちうる信念だと感じました。あるいはそのチャレンジ精神は漁業から筵(むしろ)、塩や煙草から醤油造りまで様々な事業を手掛けていたと言う初代社長の血筋なのかもしれません。

仕込み蔵

酛場の次は仕込み蔵、柱のない空間に数多く並んだタンクの中では、着々と発酵が進んでいます。完全発酵少し手前の「自然舞」を飲ませて頂きましたが、少し甘みが残っていて、酒造りの行程を舌で覚えることができました。そして貯蔵庫、ここは1年通常のお酒を寝かせる場所で、古酒の熟成貯蔵庫はまた別の場所にあるそうです。それぞれの嗜好もあるけれど、日本酒は1年熟成させた方が旨味も出て、とくに山田錦はその傾向が強いそうです。ボージョレー・ヌーボーのような出来たてもいいけれど、しっかりと熟成された秋あがりを楽しみたいものですね。

最後に絞り機と火入れの設備を見て見学終了。事務所に戻ったあとはあれこれと試飲させて頂きました。たいして飲めやしないんですが、見学後のうまさはまたひとしおです。中には35年ものの古酒もあり、独特の風味ながら後を引く旨さが感じられます。ただ、仕込まれた当時はまだアル添だったそうで、純米の35年ものができるのが今から楽しみです。

お土産としてはこれまで飲んだことがなかった「白玉香」と「にごり酒」を購入、大満足で木戸泉酒造を後にしました。荘司社長、ありがとうございました。やはり地酒の酒蔵見学はいいですね。それぞれ独特の雰囲気を持つ蔵の写真も自由に撮れるうえ、質問に対しても企業秘密、企業秘密と言わずに何でも答えてくれます。まだまだほかの蔵も訪ねてみて、それぞれの味を楽しんでいきたいものです。

木戸泉酒造

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