2006年、ブラジルでの最終戦をもって、シューマッハー劇場はついに幕を閉じた。

「勝って引退」
とは、チャンピオンシップも絶望的となった日本GPから、シューマッハーにも強い希望と決意があった事だろう。
しかしジンクスは生きていた。プロストの51勝、セナの41勝、マンセルの31勝に続いて一の位が「1」で終わる91勝のまま彼はそのキャリアを終える事となった。あるいは引退発表が微妙にフェラーリチームにとってプレッシャーとなったか、らしくないトラブル続きにそんな思いもよぎる。しかし彼の輝かしいキャリアと、最終戦での走りを見れば、それがささいな事であるのが分かるだろう。ほとんど最後尾まで落ちた時の彼の目標はすでに無いに等しい。しかしかれはやはりレーシングドラーバーである事を証明し続けた。
最後尾まで落ちたドライバーが異常に速いのはモーターレーシングの常だ。いくらテクノロジーが支配しようとも、失うものが何もなくなったドライバーの心理はそれ以上の効果をもたらす。しかし、ブラジルのシューマッハーはそれ以上に楽しんでいたのではないだろうか。F-1の世界にいる事の、そしてF-1ドライバーである事の素晴らしさを楽しんでいたように思える。「勝てない環境ではいてもしょうがない」と引退を決めた片山右京に、「そういう事じゃないだろう、この世界にいる事は素晴らしいじゃないか」と慰留につとめた時のことが思い出される。そしてそんな彼が決めた現役引退は、巷で噂されるほどそうそう簡単には覆らない気もする。
彼は将軍であった。家来の信望を集め、思いやり、もちろん自らの努力も怠らずに高い実力を備える。将軍より強い武者はいくらでもいるが、集団全体をひとまとめにして強くする事に力を注いだのだ。さまざまなレギュレーションの変更をも乗り越えて、常にトップ争いに加わってこられたのもこの強さのおかげだろう。また、少なくはない彼の汚点にしても、チーム全体を背負う気持ちが誰よりも強かったからこそ、その時のプレッシャーも大きかったのではないかとも考えられる。
とにかく、ミハエル・シューマッハーのキャリアは終わった。こうして無事に引退ができた事はとてもいい事だと思う。また、日本GP前に引退発表をしてくれたおかげで、心してその走りを見る事もできた事は幸運だった。ダンケ、ミハエル。
そして来年。2年連続チャンピオンを擁するマクラーレンと、ライコネン&フェラーリ、チャンピオンチーム、ルノーの力関係がどうなるか、そこへ後半力をつけて来たホンダやBMWがどう食い込むか、いまから楽しみだ。ニューウィーデザインのRB3を駆るクルサードや、スーパーアグリにももちろん注目だ。F-1の世界はどんどん進んで行くのだ。

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